がん末期における鎮静
がん末期における鎮静とは
緩和ケアとは、がんと診断され身体的、精神的苦痛を和らげるケアのことです。その緩和ケアの一つとして「鎮静」があり、苦痛から解放されて穏やかに過ごせるようにします。
鎮静剤を投与して意識水準を下げる医療行為で、特に終末期の耐えがたい苦痛を緩和することを目的として実施されます。終末期の患者さんに施すこのような鎮静のことを「ターミナルセデーション」ともよびます。
鎮静には、座薬や注射が用いられ、座薬で苦痛が取り除けない場合に持続皮下注射による鎮静剤の投与が検討されます。
鎮静の対象となる症状
鎮静の対象となる症状として条件が設けられています。
なぜなら、苦痛を抱えているという理由で、医療従事者が勝手に鎮静を行うことはできないためです。
1.耐えがたい苦痛が存在している
患者さんが「耐えがたい苦痛がある」と訴える時、または患者さん本人が表現できない場合、家族と治療チームで過去の言動などを素材にして、患者が耐えがたい苦痛を体験していると推測される時です。
2.耐えがたい苦痛の症状が以下である場合
- せん妄(臓器不全に伴うもの)
- 呼吸困難
- 過剰な気道分泌
- 疼痛
- 嘔気・嘔吐
- 倦怠感
- けいれん
ミオクローヌスなどで心理的苦痛だけを理由にしてセデーションを実施してはいけません。
鎮静の診断基準
終末期における鎮静では、事前に倫理的・法的・医学的な妥当性をガイドラインにまとめ、このガイドラインを忠実に守ることが重要となります。まず、鎮静を行うかどうかにあたり、患者さん本人の意思が第一優先となり、鎮静を行う場合には患者さんに対して適用可能な緩和治療の手段が尽くされているか、2名の医師が評価を行います。
もし、患者さんに意思決定能力がない場合には、医療チームとご家族でそれぞれが持っている情報を出し合って、患者さんの意思を推測し、鎮静を行うかどうかを決めます。
鎮静の方法
鎮静にはいくつか方法があります。
間欠的に行うのか、当初より持続的に行うのかを選択できます。
薬剤に関しては第一選択薬としてミダゾラムが選択され、第二選択薬はフルニトラゼパムとされています。
ミダゾラム(ドルミカム)
投与量の調節が容易であり万一過量投与になった場合でも拮抗薬が存在するため第一に選択されます。投与開始量は0.2-1㎎/時間で、持続皮下注または持続静注で行われます。
フルニトラゼパム(ロヒプノール)
半減期が7-24時間とやや長いためミダゾラムが有効でない場合に用います。0.5-2㎎を0.5-1時間で緩徐に点滴静注が基本ですが経口摂取の手段もあります。
バルビツール系睡眠薬、抗精神病薬などのそのほかの薬剤は上記2剤が効果がない時に投与を検討しますが、できるだけ使用は避けるべきとされています。
安楽死は「患者さんに死をもたらすこと」を目的とし死期を早めますが、ターミナルセデーションは「患者さんの苦痛を緩和すること」を目的としており死期を早めるわけではないので認識を間違えないようにするのが大切です。